日中から降り続いている雪が、激しさを増した。テレビでは大雪情報、このぶんだと朝までには、さらに何十センチも積もりそうだ。
   胸に不安がよぎる。思い出したくもない、悪夢のような思い出。 3年ほど前、季節はずれの大雪で、ビニールハウスに大きな被害を受けた事があった。
 不安げに窓を見つめていた主人が、身じたくを始めた。セーターの上につなぎ、その上に防寒の上着を着こむ。 頭のヘッドライトも勇ましく、無言で吹雪の中へと消えていった。 こんな時は、大自然の猛威に立ち向かうドラマのヒーローみたいに頼もしいなと思う。
「お父さん、頑張ってね!」と見送る私。
 時計は、夜の10時をまわっているというのに、いぜんとして、勢いを弱めようとしない雪が降り続いている。でも私の胸の中にはもう不安は無い。お父さんが腰を上げたからにはきっと何とかしてくれるだろう。
 11時過ぎになって、主人は帰ってきた。雪だるまの様に全身真っ白。 手には、ほうきの柄にくくり付けたカッターナイフが握られていた。 「ビニール、破って来たよ。ちょっと勿体なかったけどハウスが潰されるよりはましだからね。」と主人。 ともかくご苦労様と、私は熱いコーヒーをサービスした。
 翌日の新聞に、近隣町村のハウス倒壊の記事が載っていた。 我が家の被害はビニール3枚。最悪の事態はとりあえず免れたのだった。 もう雪はいらない、でも外にはまだ冬将軍がどっかりとあぐらをかいているようだ。


苫小牧民報 1996年(平成8年)2月3日(土曜日)掲載


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