しばしの憩い

出窓に、花を飾っている。かれこれ2週間はたつと言うのにまだ十分に楽しめる。この素晴しく日持ちの良い花は、我が家の裏庭でひっそりと、可憐に咲いていた「都忘れ」。
菊に似た姿で、黄色のしんの周りに、紫の花びらを持つかわいらしい花を次から次とスプレー状に咲かせ、長いあいだ楽しませてくれる。
 私の大好きな花の一つ。
 今から700年以上も昔、佐渡に流刑の身となった順徳天皇は都を思っては、涙にくれる毎日であったがそんなある日、庭の片隅に咲く気品ある一輪の花をみつけ、「しばし都を忘れさせてくれる位美しい花だ。」とおおせられ、それ以来「都忘れ」と呼ばれるようになったのだと言う。
 最近は、暮らしぶりも洋風化が進み、茶の間や、お勝手がリビングやキッチンと呼ばれるようになり、家族が憩う場所に飾られる花もずいぶん変わったように思える。菊に代表される和風の花に変わって、カーネーションやかすみ草など、いわゆる「洋花」が窓辺や、食卓に飾られる事が多い様に思う。「都忘れ」は紛れもなく菊の仲間ではあるけれど和風にも洋風にもマッチする不思議な魅力がある。きっと華麗さや、豪華さとは縁のない、控えめで、清楚な美しさが、己の存在を主張しすぎないからだろう。真っ赤な薔薇の燃えるような自己主張とは何とも対照的だ。
 花は、空腹を満たしてはくれないけれども、やさしく心を和ませてくれる。物質的に豊かになった今、あえて素朴でやさしい花もたまには良いものです。
 ちなみに花言葉は、「しばしの憩い」。


苫小牧民報 1995年(平成7年)7月1日(土曜日)掲載


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